世界を動かすBLACK LIVES MATTERのムーブメント

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 米ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官によって殺害された事件を皮切りに、全米をはじめ世界各国で人種差別に抗議するプロテスト「BLACK LIVES MATTER」(黒人の命も大切)、(以下:BLM)が巻き起こっています。

この社会問題の根底には、アメリカにおける人種差別は制度化された差別や歴史的背景など、あらゆる要因が絡んでいます。インターネットの普及により世界各国の情報がどこにいても瞬時に伝達される今、企業やブランド、メディアはこの問題に対峙し、自らの立ち位置について明言し、発信、行動していくことが求められています。このブログでは紐解いて行きたいと思います。

アメリカの人種差別の歴史は合衆国として独立する以前、イギリスの奴隷商人による奴隷の売買によって始まり、1619年に初めてアフリカからヴァージニアに奴隷が持ち込まれました。南北戦争終結後の、1865年に奴隷解放宣言が施行されてからも白人と黒人が同じトイレを使用することや同じバスに乗ることも禁止されるなど、“segregation”と呼ばれる時代に突入し、その後も人種差別は続いて行きました。

もともとBLMのムーブメントは2012年にフロリダ州で当時17歳のトレイヴォン・マーティン氏が地元自警団の男性に射殺された事件がティッピングポイントとなり、今までの不条理に我慢ならなくなった人々が抗議を起こしたものですが、近年においても無実の黒人が警官によって殺害される事件が後を立ちません。今年に入ってからもアーモー・アーバリー氏やブリオンナ・テーラー氏といった黒人が警察や近隣住民の誤認によって命を落としています。今もなお人種差別撤廃を呼びかける人々の抗議運動と、警官によって無実の黒人が殺害されるという事件が繰り返されるという信じがたい現状。2020年というテクノロジーが発達し、グローバル化が進む今でもなお残る不条理な人種差別は今回のジョージ・フロイド事件によって「BLACK LIVES MATTER」というムーブメントが初めてメインストリームとなり、今まで続いていた人種差別を無くしたいと願う人々によって動き出した、というスタート地点にすぎません。グローバル化が進む社会の中で多様な人種、価値観を受け入れ、理解を深め人種差別がない世界に向けて前進を続けていくしかありません。企業として、グローバル社会の一員として、なにができるのかを考えて行動することが求められています。

新型コロナウイルスが浮き彫りにした人種の壁

新型コロナウイルスによる死者が10万人を超え、世界一のパンデミック震源地となったアメリカでは、感染者数と死者数がピークを超え5月25日にジョージ・フロイド氏の事件が起こり、混乱が続いています。過酷な状況が次々とアメリカに襲いかかっている、というイメージはぬぐいきれませんが、今回の人種差別問題と新型コロナウイルスのパンデミックは一連の流れで問題が表面化しいます。アメリカの中でも特に新型コロナウイルスの被害の大きかったニューヨークは世界屈指の人種の坩堝です。新型コロナウイルスで亡くなった方の割合を見ると、黒人やヒスパニックなどの有色人種の割合が多く、さらには貧困層が多いブルックリンやクイーンズ、ブロンクスなどの一部エリアで多くの方が命を落としているというデータが報告されています。マンハッタンに住む富裕層の人々はすぐさま郊外のセカンドハウスに逃れ、貧困層の人々は命の危険を犯しながらニューヨークの地下鉄を使って仕事場へ行きました。

抗議デモが起こった多くの都市ではパンデミック前から白人と黒人の失業率の差が歴然です。ジョージ・フロイド氏の殺害されたミネアポリスはその人種における失業率の差がもっとも大きいことも見て取れます。出典 / IPUMS

私たちは新型コロナウイルスという得体のしれないウイルスの恐怖におののいていましたが、そこから浮き彫りになったのは社会的弱者と言われる有色人種の貧困層を蝕むウイルスでした。新型コロナウイルスはアメリカの格差社会を露呈し、輪をかけるようにセントラル・パークで犬のリードを繋いでいなかったことを黒人男性のクリスチャン・クーパー氏に注意された白人女性エイミー・クーパー氏(同姓だが血縁関係なし)がその模様をビデオに撮影していたクリスチャン・クーパー氏に脅されていたと勘違いし、警察に通報するという出来事が起きました。そこで彼女が放った言葉は白人優位と認識する黒人に向けた人種差別的なものだった。その後、ジョージ・フロイド氏が殺害されたことでアメリカの黒人たちの怒りは頂点に達し、今まで我慢していた人種差別の問題が新型コロナウイルスでの人種的マイノリティの被害と重なり、ダムが崩壊したかのように一気に露呈していきました。

COVID-19により亡くなったかたの人数をニューヨークの各エリアごとに表した表。市内でもっとも死亡率が高かったのは巨大なスターレット シティ団地があるイーストブルックリンです。出典 / New York City Department of Health and Mental Hygiene

人種差別問題は決して海の向こうの話ではない

さまざまな人種で構成されているアメリカや一部ヨーロッパ各国に比べ、島国日本はどうしても人種差別という問題を直接肌で感じることが難しい、ということは否めません。それでもグローバル化が進み、世界中の情報が即座に入手できる時代において、アメリカで起こっている人種差別問題は海の向こうの話ではないのです。東京オリンピックは2021年に延期されたものの、オリンピックに向けて日本はさらなるグローバル化が求められ、高齢化社会と人口減少の問題から見ても、今後はさらに日本経済発展のためにも海外からの人々を受け入れていかなくてはいけません。多くの違った価値観、違った文化の人たちを受け入れていくためには、まずは、彼らのバックグラウンドへの理解を深めることから始まると思います。知らなくて当然のことも多々ありますが、それでも蚊帳の外の問題としてではなく、異なる文化的な背景をまずは理解することが最初の一歩です。また、高齢化の一途も辿る日本にとって、ジェネレーションZを筆頭に、これからの若い世代がグローバルな視点を持ち、世界で起こるさまざまな問題をひとごとではなく、自らの問題として関心を深めていくことがさらに求められていきます。実際にお隣り韓国のK-POPバンド「BTS」は反人種差別運動を掲げ、BLM運動に100万ドル(約1億1000万円)を寄付しています。

グローバルなマインドセットを通してBLACK LIVES MATTERを理解することはもちろんですが、日本国内に目を向けて見ると、人種差別がないわけではありません。2019年4月に改正入管法が施行されてから、日本では外国人労働者の受け入れ体制が整い、在留外国人労働者の数はどんどんと増えて行きました。法務省の調べによると、2012年には215万人程度在留外国人が2018年末には273万人に及んでいます。今後もその数は増えていくと見られますがが、低賃金での過酷な労働やパワハラなどが原因と見られる外国人労働者の若者たちの自殺が後を絶たないと言います。東南アジアなどの貧しい国から出稼ぎに来た人たちに対してのこうした扱いは、一種の人種差別ではないでしょうか?日本でも歴史からくる在日韓国人や中国人への差別などが今でも根強く残っていることに気づかされます。こうした状況は「差別している側」、からすると肌で感じることが難しい問題ですが、最近では新型コロナウイルスが中国武漢から発生したことにより、「アジア人差別」が世界中で起こっていることを見ると、身近な問題と感じますし、アジア人という一括りの差別に関して憤りを覚える人も多いと思います。

出典 / 法務省

世界のリーダーたちはこの状況で、どう社会に貢献していくのか

話はアメリカに戻りますが、BLACK LIVES MATTERを受けて多くの著名人や起業家たちも行動を起こしています。NIKEは人種差別に反対する”Don’t do it” という巨大広告をニューヨークなどの各都市に出し、BLACK LIVES MATTERへのサポートを謳っているほか、長年にわたり白人男性の優位性が取りざたされてきたテクノロジー業界の集まるシリコンバレーも黒人起業家や投資家の支援を発表しています。Redditの創設者Alexis Ohanian氏は、企業組織のボードメンバーの地位を黒人たちにも与えるべきだ、といった意味を込めてCEO職を退きました。リアーナの「フェンティ ビューティー」などを扱う大手化粧品セレクトショップのSEPHORAは、化粧品の15%の棚を黒人起業家が所有するブランドへ提供すると制約を交わした初のリテールショップとなりました。人気コスメティックブランド「Glossier」は5月30日時点で既に100万ドル(約1億円)の半額を黒人差別を撤廃する団体へ、残り半額を黒人が経営するビューティーブランドへの助成金として提供すると発表しています。逆に、トランプ大統領を支持する組織への寄付を行なった薬局チェーンのCVSなどは不買運動の対象となっています。また、ボードメンバーに黒人のいない企業は軒並み批判にさらされるなど、企業として人種差別に対し、どういった社会貢献ができるのかが問われています。ロレアルやユニリーバなど大手化粧品会社は“ホワイトニング”商品の販売を中止すると発表しています。多様な肌の人々がいる時代に、“白人のような白い肌の人が美しい”という捉えられ方は企業の目指す方向ではないとのはんだからでしょう。消費者のマインドセットも企業がこの問題に対してどういったアクションを取ったかに注目し、企業理念に賛同できない消費者はそこからの消費を控えるようになるでしょう。

〜BLACK LIVES MATTERを受けて企業がとった行動〜

>>企業として人種差別問題にどう対峙するのか明確な声明を発表

>>黒人起業家の支援や従業員の採用、関係各所への寄付など、具体的な行動へ

>>消費者とのエンゲージが生まれ、信頼関係の構築へと繋がる

 筆者はアジア人としてアメリカに住むマイノリティです。本当の意味でのグローバル化に向けて、多様な人種やカルチャーへのリスペクトと、少しでも理解を深めて何ができるのかを考察していくことが行くことが求められると実感しています。