世の中の動向を映し出す クリーンビューティーの進む先

環境に優しい自然派の成分を用いていることもクリーン ビューティーの特徴です。

マインドフルネスとも密接な、クリーン ビューティーという概念

 アメリカを中心に拡大し、最近日本でもよく耳にするようになった「クリーン ビューティー」という言葉。今後の美容トレンドを間違いなく牽引していくこのキーワードは、新型コロナウイルスの蔓延を受けて、今後、さらなる加速が予想されています。“オーガニック”などに対し、クリーン ビューティーに関しての明確な定義はないものの、体に害となるような成分を使用していない、自然や天然に近い成分を使用している、動物実験を行なっていない、環境に配慮した製造法やパッケージを使用している、などが挙げられています。公的機関などによる認定がないため、クリーンビューティーへの解釈は個人の概念などによってまちまちなことも確か。これらの概念以外に“クリーン ビューティー”のムーブメントには“マインドフルネス”といった五感を研ぎ澄ませることで精神を統一させる内面的なケアやセルフケアといったものとも密接に関係しています。さらには作り手側の環境に配慮した取り組みなど、企業理念も親和性が高いため、今の時代を映し出す鏡となる新しい概念になっていることは確かでしょう。

世界的なパンデミックによる意識的な変化が追い風に

新型コロナウイルスのパンデミックによって、消費者のマインドセットは自然とクリーン ビューティーが提唱する概念に寄り添うようになってきました。

①ロックダウンによる環境への影響から自宅待機を余儀なくされ、サステナビリティを自分ごととして考える機会ができた。

②ロックダウンの影響でメンタルヘルスの重要さが明るみとなり、自宅からできるセルフケアとして、直接肌につけるものに心とカラダが心地よいものを使うよう、ユーザーが気を使うようになった。

③普段から環境や社会問題に敏感なビューティーブランドが率先して、医療従者の為にハンドサニタイザーやセルフケアグッズの寄付をし始めたことが、新しいファン作りに繋がった。

 新型コロナウイルス蔓延後から中国での大気汚染は一時的に改善され、ロサンゼルスではPM2.5が40%も減少し、ダウンタウンの摩天楼がくっきりと見えるようになったと言います。世界経済が強制的にストップしたことによって起こった環境改善は、人々に「環境改善がより身近なもの」という意識を植えつけたことでしょう。それによって、クリーンビューティーをはじめ、日常生活を通して身近にできるサステナブルな試みへの意識がさらに高まってくると思います。ただでさえ、自宅で過ごす時間が多くなった今、メイクアップよりもスキンケア商品に投資するユーザーが増えていることは周知の事実で、この流れがクリーンビューティーの市場を押し上げていくと言われています。

大手コスメティック企業もクリーン ビューティーの市場に参入

 オーガニックや天然成分、再生パッケージを徹底的に追求したクリーンビューティーの商品は生産過程でのコストもかかるため、クリーンビューティーの新興ブランドはスタートアップも多く、D2Cで作り手の理念を説明し、ファンを獲得していくパターンが一般的です。そんなトレンドの中、大手ビューティー企業にも新たな動きが見られます。セフォラではショップ内に“Clean at SEPHORA”のセクションを設け、同ショップがセレクトするクリーンビューティーブランドを取り扱うなど、ビューティー業界を牽引する人気ショップでも独自の編集を行いクリーンビューティーのカテゴリーに力を入れています。資生堂は昨年、グループ傘下でもある「ベアミネラル」をクリーンビューティーにフォーカスしたブランドへとリブランディングを行なっています。また、同社は昨年秋にアメリカのクリーンビューティーブランド「ドランクエレファント」を買収するなど、グループ全体でサステナブルなブランドイメージへと転換を計っています。資生堂自体もパッケージなどにリサイクル素材を積極的に使用しているほか、新型コロナウイルスの影響でローンチが延期になっているものの、クリーンビューティーブランド「バウム」を近日ローンチ予定で、企業としてSDGSの取り組みに舵を切っています。また、資生堂だけでなく、「スック」や「RIMK」を取り扱うエキップも、今春クリーンビューティーブランド「アスレティア」をローンチしたばかり。「バウム」「アスレティア」ともに成分からパッケージなどに至るまで、環境に配慮した成分を使用している大手ビューティー企業が打ち出すクリーンビューティーブランドです。

アメリカではこれらクリーンビューティーブランドを抱えるロレアルUSAが25万ドル(約2700万円)をアメリカの非営利団体Feeding Americaに寄付し、自社で消毒液やマスクの生産を継続するなどの措置を取っています。エスティ ローダー グループ傘下のアヴェダも自社製品を販売するサロンやスパなどに対してコロナウイルス救済プログラムとして売上金の一部を寄付するなどの活動を行なっています。インディペンド系のクリーンビューティーブランドも新型コロナウイルス危機を受けてさまざまな救済措置を取っています。タタ・ハーパーでは研究所で独自に生産したハンドサニタイザー500本をロサンゼルスの医療コミュニティーに寄付したほか、ニューヨーク発祥のミルク メイクアップは4月10日の売上金100%をニューヨーク市の新型コロナウイルス緊急援助基金に寄付しました。それ以外にも25万ドル(約2700万円)相当の商品を最前線で戦う医療従事者に寄付するなどの活動を行なっています。

 今後、ビューティー業界は本業となる商品の販売だけでなく、サステナブルな社会を目指していく活動にさらに力を入れ、この動きは加速していくでしょう。