第一回 AYDEA Women’s 対談 ゲスト / 堀江愛利 女性のリーダーシップのあり方とは?

女性起業家をサポートするというエネルギッシュなパワーに溢れる堀江愛利さん。

3月8日は国際女性デー。AYDEAでは代表の松井綾香をホストに世界中のさまざまな分野で活躍する女性をゲストに招いて対談を行います。記念すべき第一回目のゲストはWomen’s Startup Lab代表取締役の堀江愛利さんです。

シリコンバレーで女性起業家に特化した育成プログラムを作成し、アクセラレーターとして女性起業家を支援している堀江さん。常に前向きでエネルギッシュ、女性起業家がもっともっと活躍する世の中にするために、私たちはどう変わっていくべきなのかを伺いました。

Text by Reiko Suga

松井:愛利さん、よろしくお願いします!

堀江:よろしくお願いします。綾香さんと私が知り合ったのは昨年の夏前ぐらいだったかしら?私は普段、シリコンバレーが拠点なのですが、WiSE24という女性起業家向けのグローバルなピッチイベントがオンラインであって、綾香さんにはニューヨークチャプターのリーダーをやってもらったのよね。

松井:私は数年前にサンフランシスコに住んでいた頃から一方的に愛利さんのことをフォローしていましたが(笑)、WiSE24では一緒にニューヨーク・チャプターをリードさせていただいて本当に楽しかったです。私も2014〜2018年までシリコンバレーで働いていましたが、少しテックから一歩引いて、文化の発信やライフスタイル寄りの仕事をメインにしたいなと思ってニューヨークに移りました。
堀江:WiSE24は女性起業家のショーケースで、24時間通しで色々な女性起業家がピッチをするというものです。投資家の方から「いい女性起業家がなかなかいないんだよね〜」なんて言われたりするものですから、それなら女性起業家に特化したピッチをしようとなって。スペイン、ウクライナ、カナダ〜という風に参加したい国をリレーしようということになって、17ヵ国から女性起業家の方達に参加していただきました。

韓国政府が主催したカンファレンスで講演をした際の一枚。世界各国を飛び回りパブリックスピーチを行うなど、多忙な日々。

長年かけて女性起業家が進むべき道路の舗装を徐々に整備

松井:3月8日は国際女性デーということですが、2013年にWomen’s Startup labを立ち上げられた愛利さんにとって、創業当時に比べ、起業家の女性を取り巻く環境は変わってきていると思いますか?

堀江:2013年にWomen’s Startup Labを立ち上げたのですが、その当時、女性起業家に特化したアクセラレーターは珍しい時代でした。それでもちょうどFacebookのシェリル・サンドバーグが著書を出したり、女性起業家や女性役員に注目が集まり始めた頃だったんです。それ以来、女性への注目もより加速されて、私もスピーカーで呼ばれる事が多くなりましたね。テキサスのオースティンで行われたSXSWに呼ばれてスピーチをしたりしました。色々デビューして、カンヌ国際映画祭にも呼んでいただいたり、ピッチコンテストのSlushでスピーチをしたり、自分では想像もつかなかった。元々、パブリックスピーチも苦手だったし。

松井:え、本当ですか?そんな風には見えません。(笑)

シリコンバレーのアクセラレーターの中でも女性に特化した支援を行おうと思ったキッカケは何だったのでしょう?

堀江:小さなことの積み重なりだったように思います。テック関係の起業家を支援するY CombinatorやTechstarsを見ていても女性が少ないんです。以前はアクセラレーターのプログラムが3ヶ月のものが多く、起業家は家のことはすべて投げ出して3ヶ月どっぷりシリコンバレーに浸かるというのが当たり前のようになっていました。そんな中、「若い男性でエンジニア以外起業に向いてないよ」つまり女性は無理!と言い切る人に多く出会い「冗談でしょう?」と思いましたが、シリコンバレーでは真顔で言っている時代でした。“こうあるべき”というのがガチガチに決まっている環境だったんです。

環境も文化もエコシステム的に女性が起業家として入れないような風潮がありました。その当時、私が女性に特化した問題に興味があったかというと、実はそうでもなかったのですが、それ絶対必要!」と思う女性起業家のアイデアが悉く男性に刺さらない現状を何度も見て、このままでは未来がやばいと思いましたね。

堀江さんが主催するWomen’s Startup Labの女性起業家育成プログラム。世界各国の女性起業家たちがプログラムに申し込んでいます。

松井:愛利さんはお子さんが2人いる39歳で起業されたんですよね?

堀江:そうなんです。子供を産んでママになった時、ママ達の現場はテクノロジーとはかけ離れたアナログな場所でした。シリコンバレーにいながらにして、あまりにアナログで取り残されているような気持ちになり、女性の声、ニーズが反映されていないと言うのはこの事かと痛感しました。

自然に女性が入れない環境になっているのであれば、私が発起人となって自然に女性を巻き込める環境にできるかもしれないと思ったんです。私が影武者になって女性達を引っ張って行こう、と。それが2003年の話ですね。

松井:素晴らしいです。2003年からだいぶ時が経ちましたね。2021年になった今、女性起業家も増えてきましたが、日本もシリコンバレーも変わってきましたか?

堀江:シリコンバレーはIT業界のメッカで、動くお金の額も違えば勢いも違う。世界中のテックのトッププレイヤーたちが集まってくる場所なので、リソースの豊かさも違います。カフェに入ればそこら中の席でピッチをしていて「僕のアイディア聞いてよ!」っていうのがアリな世界。そうでもしないと仲間に入れてもらえないような感じ。綾香さんもシリコンバレーのディープな場所にいたから分かるでしょ?

松井:そうですね、私はFacebookの初期メンバーとシェアハウスで暮らしていたり、と、ディープな場所にいましたね。そうそう、スタバに入ると「シリーズAが〜」とかしか聞こえてきませんよね。

堀江:2021年になって、女性起業家に特化したアクセラレーターも増えてきました。「女性でアクセラレーターをやっている」ということも堂々と言えるようになってきました。「#Metoo」ムーブメントもあって、女性が声をあげるようになってきた。また、ベンチャー界も女性の投資家が少なかったのですが、今はファンド額は少なくてもいいから投資家として始めます!という人も増えました。私も2年前にベンチャーキャピタルの立ち上げで色々と回っていた時には女性起業家という事に対して非常に悲観的でした。今ではアメリカ国内で女性に特化したVCが111件もあると聞きました。

松井:やっとエコシステムの中に女性のプレイヤーが増えてきて、社会的なシステムとして女性の存在が顕在化してきたようですね。

堀江:女性起業家がやっているビジネスを男性がなかなか理解してもらえない、だからこそお金も動かなかった。男性のみの投資家が集まった時に、「なぜ女性に特化したマーケットやニーズがある」ということを教育する為だけに会議が終わってしまうなことも。つまり事業のポテンシャルの話するところにもいかない。 そこに一人でも女性投資家が居ればすぐわかるような事も多い。ですが嬉しい事にこの2年で女性VCの数が増えてきたのでそのブラックゾーンも変わって来ていると思います。

Women’s Startup Labのように、表向きに女性起業家を支援する投資家が出てくるようになった。素晴らしい車があっても道がないと走れないように、ここにきてやっと女性起業家をサポートするという道路舗装ができました。システムチェンジができてエコシステムが形になり始めました。

松井:日本でも車(起業家)が走れる道はできていくと思いますか?

堀江:日本にいる方は優秀だけれど、日本はまだまだ課題がありますよね。まず、シードステージを助けるようなエンジェル投資家が少ない。選ばれし起業家のみが成功し、東京に行かないと投資してもらえないなど、スタートアップを育てるという土壌がまだ整っていません。

今でもシリコンバレーに行かないと投資してもらえなかったり、投資してもらえた女性がいても、いわゆる男性に気に入られやすいタイプの女性だったりとかも言われています。(苦笑)  誰かが統計を出していましたが、多額の投資をうけている女性起業家パターンは30過ぎ、共同創業者はハーバードかスタンフォードみたいな。別にその女性たちが実力がないって言っているわけじゃないんです!ただ、男性から投資を受ける女性のタイプがパターン化しているという指摘もあり、やはり男性社会の色が出てるのは問題だと言うことを言われてました。

ポーランドで女性起業家の方達と。女性起業家同士の助け合いや繋がりも重要です。

待っていられない!私たちの未来は私たちで作り上げる

松井:こうした状況をみて、愛利さんは女性の立場から女性起業家を支援されているわけですね。

堀江:年配の女性でも起業家として成功している人がいますよね。でもアメリカでは、そういう方をサポートしているの(初期の投資先など)は、既に成功を収めている女性起業家たちだというデータもありました。 女性が女性をサポートしているんです。

男性VCの方の中には、わざわざ女性起業家に投資する理由についてジェンダー問題を押し付けられているように感じてしまう人もいる。ですが女性に投資する事はデータでもある様に、男性オンリー起業家チームよりリターンが高いと言われています。モラルの話ではなくスマートビジネスの話だという認識が必要ですね。

また、女性起業家の問題解決だけでなくエコシステム全体の変化なしでは投資も動きませんし、サステイナブルな女性の成功も生まれません。 その為アメリカでが、徐々に女性政治家も増やし行政からの改革も含め必要だとエコシステム全体で女性が活躍できる地ならし、社会の構造変化に注目して行っているようです。

松井:マーケティングをしていると、男性目線のもので作られていてダイバシティを考えられていない商品やサービスも多く見られます。ユーザーの声を聞いてペインポイントを理解していないと、根本的な解決には繋がらないと思いますし、ビジネスにおける機会損失にもなりますよね。

堀江:そうですね。全く女性の声が反映されていない物もありますよね。 ある意味、消費者としても自分たちの未来は自分たちで作り上げる感覚が必要。 つまり今では私たちが何かを購入する際も、データが収集されており、その消費行動ひとつひとつがVotingになる。すなわち意思の表れになります。日常の行動は些細なようで社会に繋がっています。日頃からなるべく女性を応援する消費や発言をしたり、女性起業家が増えれば自然と女性が暮らしやすい社会になっていきます。

女性同士は助け合って社会をよくしていくべきだなと思います。女性は女性に厳しいところがあるけれど、批判している暇はありません。ビジネスの世界では男性も女性に厳しいので、ダブルパンチになってしまう。でも、私たちの先輩たちが血反吐を吐いて道を切り開いてきてくれたことを忘れず、より女性が活躍できるよう、他の女性を日頃からプロモーションしていってください。

年齢を重ねていくと知り過ぎて怒りが溜まってしまうこともあり、「いい加減にしてよ、おじさん!」となってしまうことも多い(笑)。で、「男性にはっきり言いなさい」的に女先輩に言われて困っている若い年代の女性を見かけます。そんな中、余裕を持って色々な世代の課題を聞くことが大事だなと思っています。私が若い頃と今の若い子の課題も違う。さまざまな世代の声に耳を傾けないと(女性の間で)分断してしまうので、自分たちの意見を押し付けるのではなく、お互いがお互いの世代を理解しようとしないといけないですね。

アントレプレナーシップ講義中の様子。

人と人のコラボレーションで事業を成功へ導く

松井:オープンマインドを持つことって大事ですよね。愛利さんがWomen’s Startup Labで行なっている女性起業家に向けた合宿型のプログラムについて教えてください。

堀江:人をモチーフにした“ヒトロジー”をキーワードに掲げています。一人で頑張るのではなく、深い信頼関係を軸にネットワークを作って、1+1=5〜10になるような化学反応を起こすメソロジーです。そのような目的もあり、女性起業家を集めて投資をしてもらうために2週間シリコンバレーで合宿をします。

起業家はどんなスキルを持っていないといけないのか、シリコンバレーでの人と人との関係を構築するには起業家としてのネットワーク作りのトレーニングも必要。例えば、名刺交換をしてネットワークと呼ぶのではなく、そこからも段階があります。投資家とお茶をしてビジョンを話す、アドバイスを受け、実行に移すなどの経ての信頼関係と期待を育む。やがては「この人に投資したい」と思わせるかです。それはお金だけでなくその人の時間やネットワークなども大変貴重な物です。やはり起業家と言うのは1人ではできないもの。そういったいろいろな方からのサポートがあって上に上がっていくものです。その2週間でアドバイザーから色々と指導を受けるのですが、アドバイザー=エンジェル投資家も錚々たる顔ぶれです。

Women’s Startup Labはシリコンバレーにある特権で、世界中の起業家たちが応募してきます。もちろんうちにフィットする起業家がいると思っていて、うちで受ける起業家はコラボレーションを大切にする起業家。自信満々で「私はこなんでも(一人でも)できる!」という人よりは、ヒトロジーに合った起業家ということです。

松井:私の友人でも愛利さんのプログラムに参加した人が何人かいて、卒業後のコミュニティも温かいなと感じます。ヒトロジーが広がっている感じですね。私もWiSE24に参加した際にコミュニティ感を感じました。

コミュニティ感を大切にしている堀江さんの周りの起業家たちは結束力も強い。

女性にしか分からない苦労があるからこそ、女性同士で支え合う

堀江:起業は本当に予想もしていないことがたくさん起こるんですよ(笑)。起業したら辛いことのスタートです。資金調達をしたら人も雇わないといけないし、投資家へのリターンのプレッシャーもある。IBMで会社員として働いていた時は守られていたなと感じます。

特に女性起業家にしか分からない苦しみもあります。セクハラのようなことはほとんど全員が経験しているし、女性同士で協力して解決しないといけないことも多い。ボードメンバーの男性からのセクハラで悩んでいた女性起業家がいたので、その際はトップレベルのコーチなどをつけ、今の関係を壊さずにブレイクスルーするトレーニングをするなどしてもらいました。女性同士で心の支えになることは大事。そこからアクションを起こせたら素晴らしいし、日本でもそういう環境が整えば、もっと女性起業家が活躍できると思います。

男性主導の社会で女性起業家が戦っていくことは苦労も多いけれど、その分Hopeも大きい。先人が少ない分、自分で働き方をデザインできます。多くの女性起業家が仕事と家庭の両立に頭を悩ませることが多いのですが、女性ばかりが家庭のことを考えないといけない社会の常識も、ビジネスのやり方で変えていくことができます。

松井:性別で起業家をくくるつもりはありませんが、女性起業家にとって必要なスキルがあるとすれば教えてください。

堀江:色々ありますね。これは男女関係なく言えることですが、起業するって、自分のアイディアにFall in Loveするのではなく、お客さんにどれだけFall in Loveしてもらえるか、だと思うんです。その追求は絶対必要。

あとは、男性的なピッチを朝から晩まで聞いている投資家からすると、男性的なビジネスモデルに慣れすぎていて、女性起業家が「世界を変えたい!」みたいなことを言わなかった場合に「本気でビジネスやりたいの?」となってしまう。女性起業家は、現在の投資家たちが男性主導のビジネスモデルや男性的なピッチに慣れているということを念頭に置いておくこと。

私たち日本人は人に好かれることで上に上がれる社会や自分をわざと落として上にあげてもらうという社会で育ってきたけれど、そのマインドで女性起業家になると誤解されかねません。ただでさえ女性起業家は不憫なことも多いので、謙遜や謙虚ではなく、ここは自信が持てる、自分には誰よりもここが強みだという自分分析をするマインドセットに必要です。

男性は競い合う中に信頼関係を作ってきたとした場合、女性は同調する事や思いやりで信頼関係を作ってきた。起業家として遠慮していい人ぶりが強調される対応をしてしまい、はっきりと自分はなぜこのビジネスを成功させるだけの人物かを伝える言葉にかけると「この女性にできるの?」ということになるのだ。 

そういった意味でも女性に対してのできないんじゃない的なバイアスのため、自らを証明するために男性の10倍働いているという声もよく聞く。 セクハラやパワハラと男性以上に女性に対してのバイアスも多くそういった「災い」をひたすら打ち返さないといけない中、疲れますよね。 打つテニスボールが多いというか。 そういう意味でも、女性に起こりうる(アンフェアーですが)最悪のパターンも前もって想定しておき、返す言葉や対応を用意しておいたほうがいいですね。 

コロナ禍で求められる起業家に必要なスキルや女性起業家を目指す方々へのアドバイスなど、貴重なお話は後編に続きます。

Ari Horie (堀江 愛利) 

広島県出身。米国IBMを経て、数々のスタートアップでのキャリアをもとに、2013年にシリコンバレー初、女性に特化したアクセラレター”Women’s Startup Lab”を創業。世界中から集まる女性起業家の育成やベンチャー支援を行う。個人のマインドセット変革や確固なる現地のネットワークによる独自の育成プログラムで注目を集める。近年はイノベーション加速を目指す企業のリーダー育成にも多く携わり、参加者から高評価を得る。CNNのビジョナリーウーマン10名に選ばれ、昨年10月には、Entrepreneur Magazine “100 Powerful Women of 2020”に選出され、更なる活躍が期待される。