#立ち上がれアジア人 StopAsianHateについて理解を深める

2021年に入り、アメリカではアジア・太平洋諸国系米国人(AAPI)を狙った犯罪が急増しています。昨年の新型コロナウイルスの発生以降、アジア系の人々を狙ったヘイトクライムが急増しています。人種によって差別されることのない社会、非アジア人に対するアジア人に関する正確な情報の教育など、アメリカでは多くの課題が持ち上がっています。

今回AYDEAではClubhouseを通じ、松井 綾香、菅 礼子、田原 美穂というAYDEA collectiveのニューヨーク在住日本人メンバーで「StopAsianHate」を議題に、日本ではあまり報道されていなかった今回の人種差別問題に関しての情報や今後、私たちが起こしていくべきアクションなどについて議論をしました。小さなことからでもアクションを起こし、少しでも人種差別のない世の中になることを願っています。

Text by Reiko Suga

アジア系住民の多い都市ではアジア人差別に反対するデモが起きています。Photo by Jason Leung

Ayaka:アジア人差別の問題はアメリカに住むアジア人の当事者として日本では見えて来なかった課題が見えて来ましたね。

Miho:日本にいる友人と先日電話で話したのですが、アメリカでのアジア人差別の問題はあまり日本で報道されていないみたいです。昨年のブラックライブズマター(BLM)の時は日本でも色々と取り上げられていたのに、日本にいる日本人は自分たちがマジョリティだからアジア人の差別の問題であってもあまりピンと来ないんですかね。

Reiko:それでも実際、ニューヨーク市警察(NYPD)が取り締まったアジア系に対するヘイトクライムの件数は今年2月の時点で前年同期比867%増を記録しているんですよ。これって異常なし数字ですよね!同じアジア人として日本であまり取り上げられてないとしたら違和感を感じます。

Ayaka:アジア人は人種的にもおとなしいと思われてるから攻撃しても大丈夫だと思われている節はあると思う。アメリカやLAではデモが起こっていましたね。でもやっぱりBLMの時のデモの方が規模は大きいというか。

Reiko:今回のヘイトクライムは私たちのようなアジア人女性が多く被害に遭っているような気がします。

Miho:そう、人種差別と性別での差別が合わさっています。実際、今回被害に遭っているアジア人の60%が女性だそうです。性別と言うのも差別に追加されているのかなと感じています。

Reiko:実際おふたりは危険な目に遭ったり、差別を感じたりしたことはありますか?

アジアに対する十分に知識がないことも差別に繋がる一つの要因

Ayaka:中学2年生でオハイオ州に引っ越して来た時は、ニューヨークやロサンゼルス、シカゴそういうメトロポリタンな都市ですと、旅行したことがある人も多いですし、アジアのことをちゃんと知っている人も多いですよね。でも、中西部だとアジアのことをあまり知らない人が多いのは事実なのですが、仕方ないよね、と思うこともあったんです。自分が関わったことのない人種の人がいきなりクラスに来たら怖いと感じるのもわかるし、最初はどうしたらいいかわからないと思うんです。怖いから自分の身を守ろうとする、そこからアタックをするというような。私も日本にいた時はクラスに黒人はいなかったし、白人が来たらみんなざわざわするような、逆の経験が起点になっています。

今回のアトランタの事件もそうですが、アメリカのマジョリティは白人至上主義の人も多いし、アジアに対する知識や教育が十分にされていません。だから嫌がらせをしたり、攻撃的になったりすると言うこともあると思います。高校の時、家の郵便ポストに肌色のストッキングが入れられていることもありました。

Miho:アメリカに住んでいるアジア人は自分のカルチャーや、嫌な思いをしてもそれを隠している人が多いと思うんです。それは親にそうしろと言われている人も多いし、アメリカの教科書ではアジア系アメリカ人の歴史はアメリカの歴史でもあるのに取り上げられていないんです。知らないと言うのは教育的な問題の背景もありますよね。

Reiko:アジア系アメリカ人は学歴や社会的地位の高い職業に就いて見返してやろうと言う思いが強いと聞いたことがあります。それを持って能力を証明しようとしているのかもしれません。

Miho:先日デザイナーのフィリップ・リムさんの話をPodcastで聞いたのですが、彼もアメリカに来てファッション業界で働くと言うことを親に伝えた時に「オマエは見下されるためにアメリカに来たのか」と言われたそうです。両親はアメリカに移民して子供へ将来の道を作るために一生懸命働いているのに、ファッション業界=中国の工場の仕事のようなイメージの仕事をしてほしくないという思いがあったようです。

Ayaka:移民したアジア人が弁護士やお医者さんになると言うのが一種のアメリカンドリームのように捉えられているというのはありますよね。

Reiko:黒人は人種座別の長い歴史があると思いますが、アジア人差別の問題がここまで大きくなったことはなかなかないんじゃないでしょうか?アメリカの人種差別の問題というと、白人 vs 黒人の図式が強くて、アジア人は差別はされているけれど、相手にされていないと言うか、やっと同じ土俵に上がった感覚がありますが。

Ayaka:これが始まりですよね。アジア系はおとなしいイメージも強いし、今まで声をあげていなかった。BLMの時は黒人を応援するキャンペーンがあったけれど、今回の差別はいまだにアジア人差別が続いている気がしています。

Miho:BLMの時は企業が黒人所有のブランドに売り場を提供するなど、実際にサポートをする行動に出ていました。今回もさまざまな企業がアジア系へのサポートを表明し、寄付をしていますが、それだけじゃないよな〜と感じることもあります。

Reiko:BLMの時のように企業が実際にアジア人ビジネスのサポートに乗り出すのは今後だと期待したいです。やっぱり私たちもこれまで以上に声をあげて行かないといけないし、実際に自分たちもアジアンビジネスをサポートするなど、小さなことからでもアクションを起こせたらなと実感しています。

ステレオタイプを払拭し、世界で通用する日本人女性像を創り上げるべき

Ayaka:日本人女性は優しいと思われていたり、お嫁さんにしたいとか昔から言われますが、これって今思うとバカにされているというか、言うことを聞くと思われているってことですよね?

Miho:モテるの意味がいい意味じゃないというか。日本人女性を見ていても、欧米の男性に対するワクワク度も違いますよね。アメリカ人と付き合っている!とかがステータスになるというか。

Reiko:それって逆に日本人も人種差別していますよね?日本にいる日本人はマジョリティとしているので自分たちが人種差別をしていることに気がつかない。でも、欧米の人には憧れを抱いていたりいたりするけれど、実は日本以外のアジア人に対して下だと思って差別しているというのも事実。これも日本の教育の闇というか。

Miho:そうですね、自分たちは意識していないけれどバイアスがかかったものの考え方をしているので、中国人や東南アジアの人たちに過酷な労働を日本人が強いていることも事実です。アメリカで起こっている人種差別を人ごとではなく、日本人も自分ごととして捉えるべきだなと思います。

Ayaka:どうフレームしていいかわからないというのもあると思います。こうした問題は正解があるわけでもないし、そうすると簡単なことは言えないし、叩かれやすくなってしまう。BLMの時、日本の放送局もかなり叩かれていたので、今回のように、アジア人、自分ごとになると、ますます報道したりするこに慎重になるんじゃないでしょうか。

Reiko:私たちのようにアメリカにいたり、海外にいて自分ごとに捉えられる人たちは発信しやすいですよね。だからこそ、声をあげていくっていうのは重要なことだなと感じています。

Ayaka:日本では“女子力”なんて言葉がありますけど、こういうのが日本人女性のステレオタイプとして現れていると思うんです。私たちは日本とアメリカのクロスカルチャーを仕事にしているので、常に、アメリカ人は日本人に対してどういうイメージを持っているんだろう?って考えるんです。そうするとアニメやドラマなどから得る情報が多いと、日本人の女性がやけにセクシーにキャプチャーされていたり、男性が攻めていて可愛そうなの表情をしている女性が可愛い、みたいなキャラクターになっているんですよね。

Reiko:それが日本人女性のキャラクター設定に繋がっていますよね。実際には私たちのように意見するたくましい日本人女性はいるんですけどね。

Miho:可愛い感じのアイドルがミニスカート履いて踊っているようなイメージがクールジャパンとして発信されたりするから、外で日本人が偏見を持たれるようなイメージを出してしまっているのも大きい。日本のカルチャーの一部ではあるけどすべてではないというのを理解しないといけないですよね。

Reiko:アメリカ人の友人が日本のアニメを見たときに、やっぱり女性の胸が強調されて、幼い顔をしたキャラクターには違和感を持つみたいですよ。日本人がそういうイメージを植えつけているというのは危険ですね。日本人女性に対する男性目線のマーケティングはこういう差別が起きたときに、私たちがどう見られているかというところで露呈しますよね。

Miho:日本人として、自分たちがどう見られているのかというのを客観視して見ないと、海外でどうやって企業や自分たちが成功していけるのかというのが見えて来ないと思います。自分が世界的にアジア人としてどう見られているのか、日本人としてどう見られているのかというのを客観的に見られないと世界で戦っていけないと感じます。

Ayaka:すごくありますね。ビジネスでも日常生活でも交渉しないといけない場面が出てくると思うのですが、私がサンフランシスコ住んでいたときに、ひどいことをされて、その際にガツンと強く主張したらすごいびっくりされて、逆に責められたことがあったんです。でも相手は、私がアジア人女性だから優しいとか、言い返して来ないと思ったみたいで。友人に相談したら、それはすごく差別的でアジア人女性だから下に見ているんだと言われました。確かに、ステレオタイプではありますが、それを理解した上で戦略を立てたり交渉に臨むのはありだと思うんです。

Reiko:自分が周りからどう見られているか分からないと勝ちにもいけないということですよね。

後編ではClubhouseでゲストとしてWomen’s Startup Labの堀江愛利さんが突然ゲストとして今回のアジア人差別に対してお話をいただくという嬉しいサプライズも。長いアメリカ生活の中で、起業家の女性としての苦労に加え、アジア人として受けた差別など、さまざまな差別が入り混じるアメリカでどう戦ってきたかなど、実体験を交えて話していただきました。

また、本記事をシェアしていただく際や、アジア人差別問題の投稿やシェアをしていただく場合、#StopAsianHateのほかに、日本人の方でも簡単に検索ができるよう、#立ち上がれアジア人 #立ち上がれ日本人 のハッシュタグを付けて投稿頂ければと思います。これは今回のClubhouse での議論の際、より多くの日本人の方にアジア人差別の問題を理解し、共有いただきたく、私たちの中で決定したものです。詳細は後編にて。

松井 綾香

東京生まれ。高校を米国オハイオ州で過ごし、ボストン大学にて国際関係学・ビジネスマネージメント学科専攻。在学中にスイスとイギリスでの留学を経て、卒業後は、資源政策シンクタンクの上海オフィスにて、 日中関係・外交政策における研究者として参画する。外交官を目指すものの、異文化やリアルとデジタルの境界を超えるビジネス展開に興味を持ち始め、日系IT企業のEコマースのコンサルタントとして、150社以上の中小企業から大企業のデジタル事業展開に従事する。その後、シリコンバレーに渡り、グローバル企業の日本進出のマーケティング・ブランド戦略と日系企業の米国進出に携わる。2018年にニューヨークに拠点を移し、スタートアップから大手までの幅広い企業を対象に、海外進出におけるコンサルティングを行なっている。

菅 礼子

日本女子大学人間社会学部・現代社会学科卒業後、INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWDジャパン」編集部ではウィメンズファッションのパリコレクション取材などを担当。国内外のファッションデザイナーのインタビューなどを行なう。主婦と生活社の男性誌「LEON」編集部に移籍し、ライフスタイルをメインにタレント、パンツェッタ・ジローラモ氏の旅取材を担当し、F1やベネチア国際映画祭などをはじめ、世界30ヶ国以上の国やイベントをレポートする。渡米後、ニューヨークを拠点にジャーナリストとして日系グローバル企業のカタログ撮影や航空会社機内誌の取材・執筆を行うほか、日本ブランドの海外進出、海外ブランドの日本進出マーケティングやプロデュースを手がける。

田原 美穂

NY州立大学卒、早稲田MBA取得。NYファッション工科大学のサステナビリティ講座を受講中。新卒で投資アナリストとして日系銀行へ入社し、英国子会社にて勤務。その後、COACHにてeCommerce及びデジタルマーケティングのシニアマネージャーとして、戦略立案や日本独自のSNSの立ち上げ、オムニチャネルでのマーケティングの現地化などを実行。後にH&Mにてロイヤリティプログラムを立ち上げ、ブランドストーリーの体験などを通したファン作りに貢献した。その傍ら、革新的なサステナブルブランドとして知られるPANGAIAの日本進出アドバイザーとして日本が誇る素材や染色工場などとの懸け橋となり、実際に散った桜で染色されたリサイクルコットンのT-シャツ製作などへも携わった。