加速し始めたサステナビリティ・トランスフォーメーション(“SX”)

Photo by Tatiana Syrikova from Pexels
Photo by Tatiana Syrikova from Pexels

欧米を中心として企業や個人が環境や社会がより良いサステナブルな状況へと改善されるように、加速度的にサステナビリティ・トランスフォーメーション(“SX”)に関して目標を掲げ、実践し始めている。

Text by Miho Tabaru

地球環境について考える1日「アースデー」である4月22日には、米国が主催してオンライン形式の気候変動サミットが開催され、ジョー・バイデン大統領は米国の温室効果ガス削減率目標を従来の2倍である50%~52%削減に引き上げる表明をし、日本やカナダなどの各国もアグレッシブな目標を掲げた。

この様な高い目標を達成するためには、企業がサステナビリティを経営の軸とするSXが必須である。

日本の多くの企業では、「持続可能な環境や人や社会への配慮や活動は、コストがかかり企業利益と共存できないため、企業の社会責任(CSR)との位置づけ」に留まっているように見受けられるが、既に生活者個人も投資家も、商品やサービス、稼ぐ力だけで企業やブランドを判断していない。例えば、Forbesの記事にあるように80%弱の生活者は購買行動を企業の社会的責任や包括性(インクルーシヴネス)、環境負荷の観点から変えたとしている。

A Brave New Marketer: Rising To The Challenge Of Sustainability Communications (forbes.com)

また、トリプルボトムラインと呼ばれる人 (people)、地球 (planet) 、利益 (profit)をビジネスの軸としてとらえ、戦略を構築し、生活者へコミュニケーションする事でそれぞれが共存する事は可能である。

Reference: betterdunes.weebly.com

SXを実現するためには、サプライチェーン全ての点での改革が必要だが、今回の記事ではサステナビリティを既にビジネスの軸として活動しているアパレル企業が、アースデーに米国市場でどのような施策を実施し、どのようにコミュニケーションしたのか、いくつか事例を紹介したい。

1. Everlane x New York Times

Everlane (エバーレーン)は、LAで2010年に創業されたD2Cアパレルで、素材、労賃、輸送費、関税などの費用や生産工場に関して透明性を持たせ開示する事で一躍有名になった企業である。

Everlaneのアースデーにおける施策は、New York TimesとのパートナーシップでThe Climate Collectionと名付けたステイトメントT-シャツをローンチし、T-シャツ1枚が売れるたびに米国の公立学校に通う9人の学生がNew York Times の1年間購読が無料となる取り組みを行った。

https://www.everlane.com/nytimes

T-シャツに記述されたステートメントとは下記のようなものだった

What we buy.(何を選択して買うか)
What we put on our plates.(何を選択して食べるか)
How we use our energy.(エネルギーをどの様に使うか)
What we recycle.(何を再利用するか)
What we waste. (何を捨てるか)
How we travel.(どう旅をするか)
How we stay informed.(どのような情報にアンテナを張るか)
What we talk about.(何を語るか)
What we know. (どのような事実を知っているか)
How we understand climate change. (気候変動についてどれ位理解があるか)

The truth is worth it.(真実には価値がある)

イベント時に「コラボレーションT-シャツを販売する」、「商品1点販売ごとに○○に寄付をする」などといった座組自体は新しい物ではない。だが、この取り組みが特徴的な点は、アパレル企業がメディアとパートナーシップを結び、未来を創る学生たちに、現在の地球環境や社会の状況について事実を知ってほしい。そのうえで、自分たちの意識や行動にどうつなげていくか、何を軸にして購買決定をするべきか、といった啓蒙を目的とし、未来を育てる活動につなげる、という点で一歩深堀したユニークな施策であった。

2.Allbirds が温室効果ガス排出量算出ツールを一般公開

Allbirdsは2016年にサンフランシスコで産まれた、シューズが主製品のサステナブルライフスタイルブランド。日本でも昨年上陸し話題を呼んでいるが、メリノウールなどの環境に配慮した素材を使用した靴や、持続可能な製造プロセス、華美な広告や無駄な装飾を取り除き機能性に集中したデザイン哲学などをビジネスの中核に置いている。

Allbirdsがアースデーの取り組みとして行った事は、Carbon Footprint Calculator (温室効果ガス排出量算出ツール)をオープンソース化し、一般公開した。現在、環境負荷に関する算出ツールは様々なものがあるが、Allbirdsはこのツールを一般公開する事で、製造過程から廃棄にいたるまでのサプライチェーンの中で排出されるCO2(温室効果ガス)の排出量の算出方法の基準を業界内で作る事を目指している。

https://allbirds.jp/pages/carbon-footprint-calculator

この施策のポイントとしては、Allbirdsがファッション業界のサステナビリティリーダー的位置を獲得したいという意図も感じられるが、そもそも持続可能な環境は一社だけでは到底実現でききる事ではないので、他社や生活者を具体的なアクションに繋げるためのツールを提供する事で実現しようとしている事。

ツール(英語のみ)の一般公開は非常に画期的な事ではあるが、実際に使用する際にはサポートが必要だと感じる企業は多いだろう。また、このツールによって現状把握は可能だが、その数字をどのように分析判断し、今後のビジネスモデルに組み込んでいくか、といった点が重要である。

例えば、算出された数値を基にサプライチェーンのどの部分を改善すべきかの優先順位付け。もちろん、環境負荷の高い項目を優先的に取り組む必要があるが、企業のミッションやブランドストーリーに関連したポイントに資源を集中する必要がある。また、日本でも多くの企業が実施しているプラスチックバッグの排除やパッケージの軽量化など、比較的容易に達成できる改善点への取り組みなどを進める事も重要だが、その活動によって企業全体の活動の中の5%なのか数十パーセントなのか、どれくらいの環境負荷削減につながっているのか知っておく必要がある。

3.Stella McCartney x Greenpeace

Stella McCartney(ステラマッカートニー)は、いち早くサステナビリティをビジネスの軸にして2001年に創業されたラグジュアリーブランド。創業時よりラグジュアリーブランドとしては稀有なケースである、毛皮・皮革を一切使用せずにフェイクレザー素材や革新的な技術を用いた素材などを用いたり、完全なトレーサビリティーを求めてビスコースの素材とその原料となる木の森を探すのに2~3年を費やすなど、単なるアパレル企業以上の活動を行っている。

Stella McCartneyは、サステナビリティがビジネスの源泉にあり、全ての活動がサステナブルに繋がるので、”Everyday is Earth Day”ではある。しかし、この日は環境に対して特に人々の関心が高まる機会を活用して、畜産の影響による森林破壊を阻止する事を目的に活動しているGreenpeaceとのコラボレーションで、カプセルコレクションを発表し、食生活やライフスタイルをアップデートする事でアマゾンの森を守る啓蒙と署名活動を実施した。

https://www.stellamccartney.com/sk/en/stellas-world/earth-day-2021-stellaxgreenpeace-fights-to-end-amazon-deforestation.html

アマゾンの森は世界で最も面積が広い湿地帯で、地球上に住む10%の動物が暮らしており、地球の二酸化炭素を一番多く吸収している。しかし、森林破壊が進んでおり、昨年は英国全土の面積と同等の森が焼失し、現在は森林全体の17%が消失している。理由としては、食肉用の牛などの餌となる大豆などを育てるために森林が焼き払われるためだ。この事に警告をならす自らもベジタリアンのStella は、今回のコラボレーションを通して森林破壊の原因と事実を拡散させる事と、ベジタリアンへの転換の啓蒙を行っている。

森林破壊を阻止する活動に関して、コーヒーメーカーのLavazzaもユニークな活動を行っていたので、補足として紹介したい。

“The Vanishing Color”

Lavazza on Instagram: “The rich green habitat of the Amazon Rainforest is under threat, with 1 million trees disappearing from our planet each day. It is our…”

エスプレッソの本場イタリアで120年以上の伝統を誇るコーヒーメーカーのLavazzaは、米国に本社がある色見本の企業であるPANTONEとのコラボレーションを実施し、森林が消失している色 “The Vanishing color”を作成した。現在までも、アマゾンの森林を守る活動をサポートしてきた同社だが、アースデーの取り組みとして、森林破壊に立ち向かうシンボルとなる色を開発し、人々へリマインドする機会を創出している。

この様な事例から見ても、サステナビリティに題しては様々な角度から取り組みが行われている。マーケターや経営者たちはデジタル・トランスフォーメーション(“DX”)をここ数年は取り組んでいる方々が多いと思うが、今こそサステナビリティ・トランスフォーメーション(“SX”)に取り掛かるべきだ。

SXは企業のパーパス、環境や社会への取り組みを軸にした改革である。

マーケティングやコミュニケーションにおいても今後主流になっていく考え方だと確信している。サステナビリティはCSR部門内だけの会話や仕事ではなく、マーケッターにとっても、どのように事実をGreenwashing(環境に配慮された取り組みをしているように見せかけ、誤解を招くマーケティングなどの企業活動)することなく伝え、魅力的で本質的に環境や社会、人へのベネフィットとなり、行動に繋がる施策を作りコミュニケーションするか、そして生活者の購買意志決定において頭に残るメッセージを出し続けるというスキルが必須である。

AYDEAでは、サステナビリティ・トランスフォーメーション(“SX”) におけるマーケティング施策やコミュニケーションを中心として、サプライチェーンの全ての過程におけるサステナビリティパートナーとしてご相談をお受けしております。